虚血性心疾患治療薬の使い分け|薬剤師が処方意図を読む4つの視点【新人向け】

虚血性心疾患

狭心症・心筋梗塞などの虚血性心疾患は、門前薬局で新人薬剤師が最初によく出会う疾患群です。しかし処方薬は多岐にわたり、患者ごとに違うため戸惑いがちです。

この記事では、虚血性心疾患の3つの病態フェーズを踏まえて、「治療目標」から逆算する4つの視点で処方意図を読み解く方法を整理します。この視点を身につけると、初見の処方でも「なぜこの薬が出ているのか」が自然と見えるようになります。

虚血性心疾患とは|3つのフェーズを押さえる

虚血性心疾患は、冠動脈の狭窄や閉塞により心筋の血流が不足する疾患の総称です。薬剤師として処方を読むときは、以下の3つのフェーズに分けて考えると整理しやすくなります。

① 安定狭心症

労作時に胸痛が起こるが、症状が安定している状態。予後改善(心血管イベント予防)と症状緩和の両方が治療目標になります。

② 急性冠症候群(ACS)

プラーク破綻(動脈壁のコレステロール沈着物が破けること)+血栓形成により冠血流が急激に低下する状態で、不安定狭心症・非ST上昇型心筋梗塞(NSTEMI)・ST上昇型心筋梗塞(STEMI) を含みます。急性期は入院管理で、緊急PCI(経皮的冠動脈インターベンション)等が行われます。薬局で急性期の初期処方を扱うことはほぼありませんが、退院後の維持処方を継続的に受ける機会は多いです。

③ 慢性期(二次予防期)

急性期治療後、または安定狭心症患者の長期管理期。門前薬局で最も多く出会うフェーズで、「心血管イベントの再発を防ぐ=二次予防」が最重要目標になります。

薬局薬剤師が処方を目にする場面のほとんどは、この慢性期(二次予防)に集約されます。以降の4つの視点も、二次予防を軸に整理します。

処方意図を読む4つの視点|二次予防が主戦場

虚血性心疾患の二次予防で使われる薬剤は、大きく4つの治療目標に整理できます。

視点治療目標代表薬剤群
視点1血栓を防ぐ抗血小板薬(アスピリン、P2Y12阻害薬)
視点2動脈硬化を進めないスタチン等(脂質異常症薬)
視点3心臓を守るβ遮断薬、RAAS阻害薬(ACE阻害薬・ARB)
視点4症状をコントロール硝酸薬、Ca拮抗薬、ニコランジル

処方内容を見たら、まず「この薬はどの視点の薬か?」を頭の中で分類してみてください。それだけで「なぜこの薬が出ているのか」が半分見えてきます。

視点1|血栓を防ぐ|抗血小板薬

虚血性心疾患の患者にとって、最大のリスクは血栓による再閉塞です。冠動脈内でプラーク破綻が起こると、そこに血小板が集まり血栓を作ります。これがACS(不安定狭心症・心筋梗塞)の主要メカニズムです。

代表薬剤

  • バイアスピリン(アスピリン):通常100mg/日を長期継続が原則(症状により300mg/日まで増量可、二次予防では長期継続が推奨)
  • プラビックス(クロピドグレル):75mg/日
  • エフィエント(プラスグレル):維持用量3.75mg/日(体重50kg以下では2.5mg/日を考慮)
  • ブリリンタ(チカグレロル)90mg:1回90mg、1日2回(適応はPCI適用の急性冠症候群に限定、かつアスピリン併用DAPTでクロピドグレル・プラスグレルの投与が困難な場合

現場でよく見るパターン

DAPT(Dual Antiplatelet Therapy、2剤併用抗血小板療法):PCI後の一定期間、アスピリン+P2Y12阻害薬(クロピドグレル、プラスグレル、チカグレロル)の2剤を併用します。DAPT期間は、急性冠症候群(ACS)でPCIを受けた場合安定冠動脈疾患でPCIを受けた場合で異なります。

  • 急性冠症候群(ACS)でのPCI後:ステント留置後、アスピリン+クロピドグレル(またはプラスグレル)のDAPTを3〜12ヶ月間継続
  • 安定冠動脈疾患でのPCI後:ステント留置後、同じ組み合わせのDAPTを1〜3ヶ月間継続

ただし、上記のDAPT期間はあくまで一般的な目安です。実際にはステント血栓症のリスク(ステントの種類・留置後の経過期間・病変の複雑さ等)と全身の出血リスク(年齢・腎機能・貧血の有無・抗凝固薬併用等)のバランスを踏まえて、患者ごとに個別に判断・最適化されます。

なお、第2世代以降の薬剤溶出性ステント(DES)の登場でステント血栓症のリスクが低下し、DAPT期間は以前より短期化された経緯があります。

単剤継続:DAPT期間終了後は、原則1剤(アスピリンまたはクロピドグレル)で継続します。

新人薬剤師のポイント

  • 「薬が2剤→1剤に減った=治った」と患者が誤解しないよう、二次予防としての継続の重要性を伝えます
  • DAPT期間は患者ごとの出血リスク・血栓リスクに応じた個別判断です。「なぜまだ2剤なのか」「なぜ1剤に減ったのか」は医師の判断ですが、患者背景(ステントの種類・PCIからの経過期間)を聞くと理解の助けになります

視点2|動脈硬化を進めない|脂質異常症薬

虚血性心疾患の根本原因は動脈硬化です。冠動脈のプラーク(脂質沈着)が進行することで狭窄・破綻が起こります。この進行を抑えるのが脂質異常症薬の役割です。

代表薬剤(スタチン):日本では以下の2区分で分類するのが一般的です。

  • ストロングスタチン:クレストール(ロスバスタチン)、リピトール(アトルバスタチン)、リバロ(ピタバスタチン)
  • スタンダードスタチン:リポバス(シンバスタチン)、メバロチン(プラバスタチン)、ローコール(フルバスタチン)

併用薬

  • ゼチーア(エゼチミブ):小腸コレステロール吸収阻害薬。スタチン単剤でLDLが目標未達の場合に追加
  • レパーサ(エボロクマブ)・プラルエント(アリロクマブ):PCSK9阻害薬(皮下注)

LDL目標値(二次予防)
虚血性心疾患の既往がある患者は「二次予防」として、通常より厳しいLDL目標が設定されます。動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版では、冠動脈疾患既往のある二次予防患者は原則LDLコレステロール100mg/dL未満が目標です。さらに、急性冠症候群(ACS)・家族性高コレステロール血症・糖尿病合併・冠動脈疾患とアテローム血栓性脳梗塞の合併のいずれかに該当する高リスク層では、70mg/dL未満とより厳格な目標が設定されます。門前薬局で出会う患者はこの高リスク層に該当することも多いため、両方の目標値を押さえておきましょう。

新人薬剤師のポイント

  • 「LDLが下がったから薬をやめてもいいですか?」と聞かれることがありますが、スタチンは服用中止で再上昇します。「薬でコントロールできている状態を維持する」ことが重要と伝えます
  • LDL目標値が一次予防(既往なし)と二次予防で違うことは、意外と患者に知られていません

視点3|心臓を守る|β遮断薬・RAAS阻害薬

虚血性心疾患、特に心筋梗塞後の患者では、心筋のリモデリング(形態変化)や心不全進行を抑えることが予後改善に直結します。この「心臓を守る」役割を担うのがβ遮断薬とRAAS阻害薬です。

β遮断薬(心筋酸素需要低減・心保護)

  • メインテート(ビソプロロール)、アーチスト(カルベジロール)
  • 心拍数を落とし、心筋の酸素需要を減らすことで狭心症症状を予防
  • 心筋梗塞後には、突然死予防・再発予防効果が示されています

RAAS阻害薬(心リモデリング抑制)

新人薬剤師のポイント

  • 心不全治療で使われる薬剤群と共通していますが、虚血性心疾患では目的が「心保護+二次予防」であることを意識
  • β遮断薬は、心筋梗塞後の二次予防でガイドライン上Class I推奨(禁忌がない限り原則使用)です。RAAS阻害薬は、心不全・高血圧・糖尿病・CKDの合併時にClass I推奨。合併症の有無で処方構成が変わってきます

視点4|症状をコントロール|硝酸薬・Ca拮抗薬

視点1〜3が「予後改善」のための薬なのに対し、視点4は「胸痛などの症状を抑える」ための薬です。

硝酸薬

  • ニトロペン舌下錠(ニトログリセリン):発作時の頓服が基本
  • ミオコールスプレー(ニトログリセリン):口腔内乾燥や意識レベル低下等で舌下錠の含有が難しい場合に選択
  • フランドル(硝酸イソソルビド)、アイトロール(一硝酸イソソルビド):予防的な持続製剤

Ca拮抗薬

  • ヘルベッサー(ジルチアゼム)、コニール(ベニジピン)、ノルバスク(アムロジピン)等
  • 冠動脈拡張・血圧低下による心負荷軽減
  • 冠攣縮性狭心症では第一選択(後述)

ニコランジル

  • シグマート(ニコランジル):K+チャネル開口作用+硝酸薬様作用を併せ持つ

新人薬剤師のポイント

  • ニトロペン舌下錠は「発作時に頓服」が基本。「毎日決まった時間に飲む薬ではない」ことを患者に伝えます
  • ニトロペン舌下錠はSP包装(Strip Package、アルミ密封の帯状包装)から出さずに保管することが重要です(有効成分が湿気・空気で分解しやすいため)。ピルケース等への移し替えは避けます
  • 交付時に使用期限を必ず口頭でお伝えし、シート・薬袋にも期限を記載、薬歴にも交付時の期限を記録しておくと安心です。来局が続く患者には、期限切れが近づいたら「お渡ししたニトロペン舌下錠の期限が切れるので、受診時に先生に伝えて新たに処方してもらってください」と声かけする運用が現場では有効です

病態フェーズ別|処方戦略の一覧

フェーズ抗血小板薬スタチンβ遮断薬・RAAS硝酸薬・Ca拮抗薬
安定狭心症単剤(アスピリン等)スタンダード〜ストロング患者背景に応じて症状に応じて
ACS急性期DAPT開始(入院管理)ストロングスタチン導入早期導入ニトロ点滴等
慢性期(二次予防)DAPT→単剤LDL<100mg/dL(ACS等の高リスク層は<70mg/dL)継続症状継続例で継続

新人薬剤師がつまずく4つのポイント

① DAPT期間の判断が読めない

「なぜAさんは1年でDAPT終了、Bさんは半年で終了?」は、出血リスク・血栓リスク・ステントの種類等で個別判断されます。カルテがなくても、お薬手帳・退院時サマリー・病院からの書類にステントの種類(薬剤溶出性ステントDES/ベアメタルステントBMS)やPCI日が記載されていないか確認すると背景が見えてきます。

② 冠攣縮性狭心症ではβ遮断薬は避ける

冠動脈が痙攣(攣縮)を起こすタイプの狭心症では、β遮断薬の単独投与は避けることがガイドラインで推奨されています(症状悪化リスクのため)。Ca拮抗薬が第一選択で、Ca拮抗薬併用下でβ遮断薬が使われることはあります。処方内容から「β遮断薬なし・Ca拮抗薬中心」となっていたら、冠攣縮性狭心症の可能性を頭に置きます。

③ LDL目標値は一次予防と二次予防で違う

「LDL 120mg/dL程度で十分」というのは一次予防(既往なし)の話。虚血性心疾患既往ありの二次予防では原則100mg/dL未満、ACS・糖尿病合併・家族性高コレステロール血症・脳梗塞合併などの高リスク層では70mg/dL未満が目標です。二次予防の中でも2段階の基準があることを押さえておきましょう。

④ 糖尿病合併時のSGLT2阻害薬

糖尿病合併の虚血性心疾患患者では、SGLT2阻害薬に心血管イベント抑制効果を示す臨床試験結果があります(例:ジャディアンス(エンパグリフロジン)のEMPA-REG OUTCOME試験、カナグル(カナグリフロジン)のCANVAS試験など)。日本の急性・慢性心不全ガイドラインでは、心血管既往のある糖尿病患者の心不全予防としてジャディアンス・カナグルがClass I推奨です。ただし、これらの薬剤の日本の適応は「2型糖尿病」「慢性心不全」「慢性腎臓病」であり、「虚血性心疾患の二次予防」そのものの適応はありません。糖尿病・心不全・腎臓病の合併があって処方されている、と理解しましょう。

まとめ|二次予防を「治療目標」で読み解く

虚血性心疾患の処方を見るときは、次の3ステップで整理してみてください。

  1. どのフェーズの患者か(安定狭心症・ACS後・慢性期)を推定
  2. 4つの視点(血栓予防・動脈硬化抑制・心臓保護・症状緩和)で薬剤を分類
  3. 服薬継続の重要性を患者に伝える

これで処方全体の「意図」が見えてきます。

補足として、二次予防の重要な柱には心臓リハビリテーションもあります。薬局薬剤師の直接介入はありませんが、患者が心リハに参加しているか、日常の運動を継続しているかを声かけの中で気にかけることで、多職種連携の一員として貢献できます。

次回からは、この4つの視点それぞれを個別に深掘りしていきます。まずは抗血小板薬が虚血性心疾患で使われる理由——アスピリン・クロピドグレル・プラスグレル・チカグレロルの使い分けと処方意図を、より詳しく解説します。

参考文献

  • 日本循環器学会『急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)』日本循環器学会、2019年
  • 日本循環器学会『慢性冠動脈疾患診断ガイドライン(2018年改訂版)』日本循環器学会、2019年
  • 日本循環器学会『2020年JCSガイドライン フォーカスアップデート版 冠動脈疾患患者における抗血栓療法』日本循環器学会、2020年
  • 日本循環器学会『2022年JCSガイドライン フォーカスアップデート版 安定冠動脈疾患の診断と治療』日本循環器学会、2022年
  • 日本循環器学会/日本心血管インターベンション治療学会/日本心臓病学会『2023年JCS/CVIT/JCC ガイドライン フォーカスアップデート版 冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療』日本循環器学会、2023年
  • 日本循環器学会・日本心臓血管外科学会『安定冠動脈疾患の血行再建ガイドライン(2018年改訂版)』日本循環器学会、2019年
  • 日本動脈硬化学会『動脈硬化性疾患予防ガイドライン 2022年版』日本動脈硬化学会、2022年
  • 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「医薬品情報検索(添付文書検索)」より、各種薬剤添付文書、及びインタビューフォーム等
    https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/
  • 『今日の治療薬 2026』南江堂、2026年
  • 医療情報科学研究所 編『薬がみえる vol.1』メディックメディア

※ 本文中の処方例・用量・副作用頻度・エビデンスの記述は、上記ガイドラインおよび各薬剤の添付文書・インタビューフォームに基づいた一般的な内容です。具体的な処方判断は主治医・担当薬剤師にご相談ください。

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