高血圧の処方箋でARBと利尿薬の併用(テルミサルタン+ヒドロクロロチアジドなど)を見かけたとき、「なぜこの組み合わせ?」と感じる新人薬剤師もいるかもしれません。ARB+Ca拮抗薬ほど頻度は高くないものの、体液量依存型高血圧や治療抵抗性高血圧では欠かせない選択肢です。
本記事では、ARBと利尿薬の併用意図と相乗効果の仕組み、主要配合剤の違いを整理します。
体液量依存型高血圧とは|日本人に多いタイプ
高血圧の成因のうち、体液量(Na・水の貯留)依存型は日本人に多いタイプとされます。
- 食塩摂取量が多い → 腎臓がNaを貯留
- Na貯留に伴い水も貯留
- 循環血液量が増え、血圧が上がる
- RA系も同時に活性化
このタイプではARB単独だと効果が頭打ちになることがあり、利尿薬を加えて体液量を減らすことで降圧効果を引き出します。
ARB+利尿薬の相乗効果|作用点の違いがカギ
ARBと利尿薬は、高血圧の異なる成因に作用します。
- ARB:アンジオテンシンII受容体遮断 → RA系抑制、血管拡張
- 利尿薬(サイアザイド系):Na・水排泄 → 循環血液量減少
この2つを組み合わせると、次のような相乗作用が生まれます。
1. 利尿薬が効きを強める
利尿薬で体液量が減ると、代償的にRA系が活性化します。これはいわゆる「利尿薬の降圧効果を打ち消そうとする反応」です。ARBがこの代償的RA系活性化を抑えるため、利尿薬の降圧効果が維持されます。
2. 副作用が互いに相殺される
- 利尿薬によるK喪失 ⇔ ARBによるK保持
→ 血清K値の変動がマイルドになる - 利尿薬単独では低K血症が出やすいが、ARB併用で頻度が下がる
3. 降圧効果が足し算以上になる
作用点が異なる2剤の併用は、用量を2倍にするより効果が大きく副作用が少ないことがエビデンスで示されています。これはARB+Ca拮抗薬の併用と同じ原理です。
主要なARB+利尿薬 配合剤
日本で使われる主なARB+サイアザイド系利尿薬の配合剤です。
| 配合剤名 | ARB | 利尿薬 |
|---|---|---|
| ミコンビ配合錠AP/BP [テルチア配合錠AP/BP] | テルミサルタン40mg/80mg | ヒドロクロロチアジド12.5mg |
| プレミネント配合錠LD/HD [ロサルヒド配合錠LD/HD] | ロサルタン50mg/100mg | ヒドロクロロチアジド12.5mg |
| エカード配合錠LD/HD [カデチア配合錠LD/HD] | カンデサルタン4mg/8mg | ヒドロクロロチアジド6.25mg |
| コディオ配合錠MD/EX [バルヒディオ配合錠MD/EX] | バルサルタン80mg | ヒドロクロロチアジド6.25mg/12.5mg |
| イルトラ配合錠LD/HD | イルベサルタン100mg/200mg | トリクロルメチアジド1mg |
※ 成分量は代表的な規格。最新の添付文書で個別確認してください。
配合されている利尿薬はほぼサイアザイド系です。降圧治療での利尿薬は短時間作用型のループ利尿薬ではなく、長時間作用型のサイアザイド系が合理的なためです。
ARB+利尿薬が選ばれる場面
1. 体液量依存型高血圧
塩分感受性高血圧、夜間も高血圧が続くタイプ、浮腫傾向のある高血圧に有効です。
2. ARB+Ca拮抗薬で効きが不十分なとき
「ミカムロ配合錠[テラムロ配合錠]やエックスフォージ配合錠[アムバロ配合錠]でも血圧が目標に届かない」場面では、サイアザイド系を追加する選択肢が取られます。
3. 治療抵抗性高血圧の基本3剤
ARB/ACE阻害薬+Ca拮抗薬+サイアザイド系は、治療抵抗性高血圧の標準処方です。配合剤と単剤を組み合わせて錠数を減らすこともあります。
4. 高齢者の難治性高血圧
高齢者では血管硬化と体液量依存の両方が関わることが多く、ARB+利尿薬は病態にマッチします。ただし低Na血症・脱水には要注意。
よくある処方パターン
- 単剤併用の初期導入:テルミサルタン 40mg + ヒドロクロロチアジド 12.5mg
→ 効果が安定したらミコンビ配合錠AP[テルチア配合錠AP]に切替 - 配合剤での切替:ミコンビ配合錠AP[テルチア配合錠AP]で効果不十分な場合、
→ミコンビ配合錠BP[テルチア配合錠BP](テルミ80/ヒドロクロロチアジド12.5)1錠 分1 朝
現場でよく見る併用処方
- ARB+サイアザイド+Ca拮抗薬(治療抵抗性高血圧の基本3剤)
例:ミコンビ配合錠AP[テルチア配合錠AP] + アムロジピン 5mg - ARB+サイアザイド+MRA(難治性高血圧)
例:プレミネント配合錠LD[ロサルヒド配合錠LD] + スピロノラクトン 25mg - ARB+ループ利尿薬(心不全・eGFR 30未満)
例:カンデサルタン 8mg + フロセミド 20mg
→ 配合剤はないため別々に処方
新人薬剤師が見るべきポイント|併用特有の注意
1. 血清K値のモニタリング(方向は患者次第)
利尿薬が「K下げ」、ARBが「K上げ」と相反する作用を持つため、結果として血清Kがどちらに振れるかは患者次第です。
- 腎機能低下・高齢者 → 高K血症リスクが強く出やすい
- K補給食品を多く摂る患者・MRA併用 → 高K血症
- 食事量が少ない高齢者・嘔吐下痢 → 低K血症
定期的な血清K・Na・Crのフォローが基本です。
2. 高尿酸血症・痛風(利尿薬側の副作用)
サイアザイド系は尿酸排泄を低下させ、血清尿酸値を上げます。
- 痛風既往患者は慎重投与または禁忌扱い
- ARBには尿酸排泄を促進するもの(ロサルタンなど)があり、一部で痛風リスクを軽減する報告もある
- フェブキソスタット・アロプリノール併用時はモニタリング強化
3. 低Na血症(高齢女性でとくに注意)
サイアザイド系は低Na血症を起こしうる副作用です。ARB併用ではリスクが相殺されるわけではありません。
- 症状:倦怠感、食欲不振、意識障害
- 服薬開始初期・増量時の血清Na確認
4. トリプルワーミー|配合剤でも成立
ARB+利尿薬+NSAIDsの3剤併用は急性腎障害(AKI)のリスクが顕著に上がります。ミコンビ配合錠[テルチア配合錠]やプレミネント配合錠[ロサルヒド配合錠]を服用中の患者がOTC鎮痛薬(ロキソプロフェン・イブプロフェン等)を購入するときは、必ず声をかけましょう。
- 高齢・脱水・発熱時はとくに警戒
- 配合剤は1錠でARB+利尿薬が入っている → トリプルワーミー成立まであと1剤
5. 妊娠禁忌
ARB成分が含まれる以上、妊娠中・妊娠の可能性がある女性は禁忌です。若年女性で処方を見た場合は、必ず妊娠可能性を確認します。
6. 耐糖能・脂質への影響
サイアザイド系は軽度の耐糖能悪化・LDL上昇を起こしうる副作用があります。
- 糖尿病合併例ではHbA1c・脂質のフォロー
- 低用量配合(ヒドロクロロチアジド 12.5mgや6.25mg)では臨床的影響は小さいとされる
7. 夜間頻尿
利尿薬成分があるため、夕方以降の服用は夜間頻尿の原因になります。
- 朝1回投与が基本
- 高齢者の夜間トイレは転倒リスクに直結
- 「朝飲んでください、夜は避けてください」と服薬指導
まとめ
ARBと利尿薬の併用が選ばれる理由は、「体液量依存型高血圧への適応」「作用点分離による相乗効果」「配合剤によるアドヒアランス向上」の3点です。
- ミコンビ・プレミネント・エカード・コディオ・イルトラなど主要配合剤あり
- 利尿薬のK喪失をARBが補正する相殺効果
- 治療抵抗性高血圧の基本3剤(ARB+Ca拮抗薬+サイアザイド)の一角
- 高K/低K/低Na/高尿酸/トリプルワーミー/妊娠禁忌/夜間頻尿が服薬指導の要点
- 配合剤は「トリプルワーミー成立まであと1剤」を意識
次回は、降圧薬が変更された理由を読み解くという実践的なテーマで、処方切替の背景から患者対応のヒントを整理します。
参考文献
- 日本高血圧学会『高血圧治療ガイドライン2019』日本高血圧学会、2019年
- 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「医薬品情報検索(添付文書検索)」より、各種薬剤添付文書、及びインタビューフォーム等
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/ - 『今日の治療薬 2026』南江堂、2026年
- 医療情報科学研究所 編『薬がみえる vol.2』メディックメディア
※ 本文中の処方例・用量・配合剤の規格は、上記ガイドラインおよび各薬剤の添付文書に基づいた一般的な内容です。配合剤の正確な成分量・適応は最新の添付文書を必ず確認してください。具体的な処方判断は主治医・担当薬剤師にご相談ください。

