ACE阻害薬とARBの違い|使い分け・空咳・腎保護作用を解説

高血圧

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降圧薬の使い分け|薬剤師が処方意図を読む3つの視点【新人向け】

エナラプリルやイミダプリルといったACE阻害薬を見ると、「ARBでよくない?」と感じる薬剤師も少なくないはずです。ARBの方が空咳が少なく、日本では処方頻度も高いからです。

しかし実際には、ACE阻害薬が選ばれる明確な理由があります。本記事では、ACE阻害薬とARBの違い使い分けを、作用機序・副作用・臨床シーンの3軸で整理します。

高血圧とレニン・アンジオテンシン系

高血圧の治療を理解する上で、レニン・アンジオテンシン(RA)系は避けて通れません。血圧上昇の中心的な経路であり、糖尿病性腎症や心不全の進行にも深く関わります。

RA系の流れ:

  1. 腎臓からレニンが分泌される
  2. レニンがアンジオテンシノーゲンをアンジオテンシンIに変換
  3. ACE(アンジオテンシン変換酵素)がアンジオテンシンIをアンジオテンシンIIに変換
  4. アンジオテンシンIIがAT1受容体に結合 → 血管収縮・アルドステロン分泌

この流れのどこをブロックするかで、ACE阻害薬とARBが分かれます。

ACE阻害薬とARBの作用機序の違い

ACE阻害薬:アンジオテンシンIIを「作らせない」

ACE阻害薬はACEを阻害することで、アンジオテンシンIIの産生自体を抑えます。

  • 代表薬:エナラプリル、イミダプリル、ペリンドプリル、リシノプリル
  • 追加効果:ブラジキニンの分解も同時に抑制 → 血管拡張作用を増強するが、空咳の原因にもなる

ARB:アンジオテンシンIIを「働かせない」

ARBはAT1受容体をブロックして、アンジオテンシンIIの作用を阻止します。

  • 代表薬:テルミサルタン、ロサルタン、オルメサルタン、アジルサルタン
  • ブラジキニンには影響しない → 空咳が出にくい

比較表でひと目でわかる違い

項目ACE阻害薬ARB
作用点ACEを阻害(上流)AT1受容体をブロック(下流)
アンジオテンシンII産生減る変わらない(受容体でブロック)
ブラジキニン増える(分解抑制)変わらない
降圧効果同等同等
腎保護効果確立確立
空咳比較的多い(5〜20%)ほぼなし
血管浮腫稀だが注意(顔・口腔・気道)ACE阻害薬より稀
薬価後発品で安価後発品でACE阻害薬より高めのことが多い

ACE阻害薬が選ばれる場面|エビデンスが決め手

ARBの方が副作用が少ないのに、なぜACE阻害薬が処方されるのか。理由は大規模臨床試験によるエビデンスの蓄積です。ACE阻害薬はARBより歴史が古く、以下の領域でエビデンスが厚いとされます。

1. 慢性心不全

SOLVD試験(エナラプリル)、CONSENSUS試験(エナラプリル)などで、心不全患者の予後改善が示されました。心不全治療の基本薬として位置づけられています。

2. 心筋梗塞後の左室機能低下

SAVE試験(カプトプリル)などで、心筋梗塞後の心不全進展と死亡抑制が示されました。

3. 高リスク心血管疾患

HOPE試験(ラミプリル)では、心血管高リスク患者で心筋梗塞・脳卒中・心血管死亡の減少が示されました。

4. 蛋白尿を伴う腎疾患

ARBと同様に腎保護効果があり、糖尿病性・非糖尿病性を問わず使用されます。

ACE阻害薬とARBは併用しない|ONTARGETの教訓

ONTARGET試験で、ACE阻害薬とARBの併用は単剤と比べて腎障害・高K血症・低血圧などの副作用が増える一方、予後改善効果は得られないことが示されました。

  • RA系阻害薬はどちらか1つを使い、併用しないが原則
  • ACE阻害薬+ARBの処方を見たら、疑義照会の対象になりうる
  • 例外的に専門医が心不全の一部症例で併用することはある

ARBが選ばれる場面

一方、次のような場面ではARBが優先される傾向にあります。

  • 高血圧+糖尿病(空咳を避けたい、長期継続を重視)
  • 過去にACE阻害薬で空咳が出た患者
  • 服薬アドヒアランスを重視したいとき
  • 高齢者で咳による誤嚥性肺炎リスクを避けたいとき

空咳が理由でACE阻害薬からARBへ切り替えになるケースは現場でよく見ます。処方変更の背景を読めると、服薬指導に一歩踏み込めます。

使い分けの判断フロー|処方意図を読む4ステップ

処方の意図を読む時、次の順で考えると整理しやすいです。

  1. 心不全・心筋梗塞後か? → YES なら ACE阻害薬が基本(不耐ならARB)
  2. 糖尿病合併か? → YES なら ARBが多い(空咳を避ける)
  3. 過去にACE阻害薬で空咳歴は? → YES なら ARB一択
  4. 上記いずれでもない+腎保護目的 → ARBまたはACE阻害薬(コストも加味して選択)

この4ステップで、処方箋の「なぜこの薬?」の8割は説明できるようになります。

よくある処方パターン

  • 心不全+高血圧:エナラプリル 2.5〜5mg 1錠 分1
  • 心筋梗塞後:ペリンドプリル 2mg 1錠 分1
  • 蛋白尿合併高血圧:イミダプリル 5mg 1錠 分1
  • ACE阻害薬で空咳が出た後の切替:テルミサルタン 40mg 1錠 分1

ACE阻害薬は少量から開始、血圧と腎機能・K値を見ながら漸増が基本です。

現場でよく見る併用処方

  • ACE阻害薬+Ca拮抗薬
    例:エナラプリル 5mg + アムロジピン 5mg
  • ACE阻害薬+β遮断薬+利尿薬(心不全の基本セット)
    例:エナラプリル 2.5mg + ビソプロロール 2.5mg + フロセミド 20mg
  • ACE阻害薬+利尿薬
    体液量依存型の高血圧で選ばれることがある

新人薬剤師が見るべきポイント|重要な安全性情報

ACE阻害薬・ARBに共通する注意点と、ACE阻害薬特有のものがあります。

1. 空咳(ACE阻害薬特有)

  • 原因:ブラジキニン蓄積
  • 頻度:5〜20%とされる
  • 発現時期:服薬開始数日〜数週間(数ヶ月後の発現もあり)
  • 対応:継続できなければARBへの変更が一般的
  • 服薬指導:「服薬開始後に乾いた咳が続くことがあります。気になれば相談してください」と先に伝える

2. 血管浮腫(ACE阻害薬で頻度が高め、重篤)

  • 顔・唇・舌・口腔・咽頭の腫脹
  • 気道閉塞を起こしうる緊急度の高い副作用
  • 服薬開始直後〜数年後まで発症しうる
  • 既往歴のある患者はACE阻害薬・ARBとも禁忌
  • 服薬指導で「顔や舌が腫れたらすぐ受診」と伝える

3. 高K血症(両剤共通)

  • 原因:アルドステロン抑制による腎でのK排泄低下
  • 腎機能低下、K保持性利尿薬(スピロノラクトン等)併用、NSAIDs併用、高K食品摂取で増強
  • 血清K値のフォローが基本

4. 急性腎障害・腎機能悪化

  • 腎動脈狭窄症(両側・単腎を含む)では禁忌
  • 脱水・NSAID併用・利尿薬併用(トリプルワーミー)でAKIリスク
  • 初期のCr上昇は30%以内なら許容、それ以上は要確認

5. 妊娠中・妊娠可能性ありの女性は禁忌

  • 胎児毒性(腎発達障害、羊水過少、頭蓋骨形成不全など)
  • 挙児希望のある女性には他剤への切替を検討

6. RA系阻害薬の併用は原則禁止

  • ACE阻害薬+ARBの併用は副作用が増えるだけで予後改善効果なし(ONTARGET試験)
  • 処方箋でこの組み合わせを見たら、疑義照会の対象になることがある

7. 初期用量は少なめに

  • 心不全患者や高齢者では、初回投与で低血圧を起こしやすい
  • ACE阻害薬は少量から開始、1〜2週間ごとに血圧・腎機能・K値を見ながら漸増が基本

まとめ

ACE阻害薬とARBは「同じRA系阻害薬」ですが、作用点の違いから副作用プロファイルと適応優先度が異なります。

  • ACE阻害薬は心不全・心筋梗塞後でエビデンスが厚く、予後改善の基本薬
  • ARBは空咳が少なく長期継続しやすいため、日本で処方頻度が高い
  • 腎保護効果は同等、併用は原則不可(ONTARGET試験)
  • 血管浮腫・高K血症・腎動脈狭窄禁忌・妊娠禁忌は両剤共通の要注意項目

処方変更(ACE阻害薬→ARB)を見たら、「空咳が理由かも」と一歩踏み込んで患者確認できる薬剤師を目指しましょう。

次回は、降圧薬のもう一つの柱である利尿薬について、なぜ高血圧治療で使われるのか、処方意図と使い分けを掘り下げます。

参考文献

  • 日本高血圧学会『高血圧治療ガイドライン2019』日本高血圧学会、2019年
  • 日本循環器学会『心不全診療ガイドライン』日本循環器学会、2025年
  • 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「医薬品情報検索(添付文書検索)」より、各種薬剤添付文書、及びインタビューフォーム等
    https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/
  • 『今日の治療薬 2026』南江堂、2026年
  • 医療情報科学研究所 編『薬がみえる vol.2』メディックメディア

※ 本文中の処方例・用量・副作用頻度・エビデンスの記述は、上記ガイドラインおよび各薬剤の添付文書に基づいた一般的な内容です。具体的な処方判断は主治医・担当薬剤師にご相談ください。

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