処方箋にヒドロクロロチアジドやインダパミドといった利尿薬を見ると、「高血圧にむくみの薬?」と一瞬違和感を覚える新人薬剤師もいるかもしれません。しかし利尿薬は、日本人の高血圧治療で今も重要な位置を占める降圧薬のひとつです。
本記事では、利尿薬がなぜ降圧治療に使われるのか、処方意図と使い分けをサイアザイド系を中心に整理します。
高血圧と体液量|Naと水が多いと血圧が上がる
高血圧の要因のひとつに「体液量の増加」があります。
- Naを摂りすぎると腎臓がNaを貯留
- Naに引っ張られて水も貯留
- 循環血液量が増える
- 心拍出量が上がり、血圧も上がる
とくに日本人は食塩摂取量が多いのが特徴で、食塩感受性高血圧(塩で血圧が上がりやすい体質)の割合が欧米人より高いとされます。利尿薬はこの「Na・水の貯留」を直接攻める薬です。
利尿薬は何をしている薬か|3つの系統と降圧で使うもの
利尿薬は作用部位(ネフロンのどこに効くか)で系統が分かれます。
| 分類 | 代表薬 | 主な作用部位 | 降圧で使うか |
|---|---|---|---|
| サイアザイド系(チアジド系) | ヒドロクロロチアジド、トリクロルメチアジド、インダパミド | 遠位尿細管 | ◎ 第一選択級 |
| ループ利尿薬 | フロセミド、トラセミド、アゾセミド | ヘンレ係蹄 | △(心不全・CKD主体) |
| K保持性利尿薬(MRA含む) | スピロノラクトン、エプレレノン | 集合管(アルドステロン受容体) | ○(治療抵抗性高血圧) |
降圧治療の主役はサイアザイド系です。ループ利尿薬は利尿作用が強いぶん短時間で効果が切れるため、純粋な高血圧治療には不向き。ただし腎機能低下例(eGFR 30未満)や心不全合併ではループ利尿薬が選ばれます。
サイアザイド系の降圧作用は2段階
サイアザイド系は投与開始の時期によって作用の主役が違います。
- 短期(数日〜数週):Na・水排泄 → 循環血液量減少
- 長期(数週〜):血管抵抗の低下(機序は完全には解明されていないが、平滑筋のNa濃度変化が関係するとされる)
この長期作用があるため、サイアザイド系は「ただ水を出す薬」ではなく、長期継続で血圧を下げる薬として位置づけられています。
利尿薬が降圧治療で使われる理由|3つの根拠
理由1:日本人の食塩感受性高血圧にマッチ
日本人は食塩摂取量が多く(1日平均10g前後)、食塩感受性高血圧の割合が高いとされます。利尿薬はNa排泄を促すため、食塩感受性の強いタイプに直接効きます。
理由2:他剤との相乗効果が大きい
ARBやACE阻害薬の降圧効果は、体液量が多い状態では頭打ちになりがちです。利尿薬で体液量を減らすと、RA系阻害薬がさらに効くようになります。
- ARB+サイアザイド系:相乗的な降圧
- Ca拮抗薬+サイアザイド系:高齢者の難治性高血圧で選ばれる
理由3:大規模エビデンスと薬価
ALLHAT試験(降圧薬比較の大規模試験)で、サイアザイド系(クロルタリドン)がACE阻害薬・Ca拮抗薬と比べて主要心血管イベント抑制で劣らないことが示されました。さらに後発品で非常に安価です。長期継続が前提の高血圧治療でコスト面の意義は大きいと言えます。
よくある処方パターン
- サイアザイド系単剤(軽症〜中等症の高血圧)
例:ヒドロクロロチアジド 12.5mg 1錠 分1 朝 - インダパミド(食塩感受性の強い高血圧)
例:インダパミド 1mg 1錠 分1 朝 - ARB+サイアザイドの配合剤
例:テルミサルタン40mg/ヒドロクロロチアジド12.5mg(ミコンビ配合錠AP[テルチア配合錠AP]) - 治療抵抗性高血圧でMRA追加
例:サイアザイド系+ARB+Ca拮抗薬でも下がらない場合、スピロノラクトン 25mg追加
高血圧治療では低用量(ヒドロクロロチアジド 12.5mg、インダパミド 1mg)から開始するのが基本です。用量を増やしても降圧効果はそれほど上がらず、副作用だけ増える傾向があります。
現場でよく見る併用処方
- ARB+サイアザイド系(配合剤が多い)
例:ミコンビ配合錠[テルチア配合錠](テルミサルタン+ヒドロクロロチアジド)、プレミネント配合錠[ロサルヒド配合錠](ロサルタン+ヒドロクロロチアジド)、エカード配合錠[カデチア配合錠](カンデサルタン+ヒドロクロロチアジド)
→ 異なる作用機序による相乗降圧、1錠にまとまりアドヒアランス向上 - Ca拮抗薬+サイアザイド系
高齢者の難治性高血圧で選択されることがある - ARB+Ca拮抗薬+サイアザイド系(3剤併用)
治療抵抗性高血圧の基本レジメン - ARB/ACE阻害薬+ループ利尿薬+β遮断薬
高血圧単独ではなく、心不全併発例で見る組み合わせ
新人薬剤師が見るべきポイント|副作用と相互作用
1. 低K血症
サイアザイド系・ループ利尿薬の代表的な副作用です。
- 症状:倦怠感、筋力低下、不整脈(とくにジギタリス中毒を助長)
- 対策:血清K値のフォロー、K保持性利尿薬(スピロノラクトン等)の併用、K補給食品の推奨
- ARB/ACE阻害薬との併用では逆にK値が補正されやすい(双方の作用が打ち消し合う)
2. 高尿酸血症・痛風
サイアザイド系は尿酸排泄を低下させ、血清尿酸値を上げます。
- 痛風既往患者は慎重投与または禁忌扱い
- フェブキソスタット・アロプリノール併用例では追加モニタリング
- 服薬指導で「関節の痛み・腫れが出たら相談を」と伝える
3. 耐糖能悪化・脂質への影響
サイアザイド系は軽度の耐糖能悪化・LDL上昇を起こしうる副作用です。
- 糖尿病合併例では少量から慎重投与
- ただし低用量(ヒドロクロロチアジド 12.5mg)では臨床的影響は小さいとされる
- インダパミドは代謝系への影響が比較的少ないとされ、糖尿病合併例で選ばれることがある
4. 低Na血症(高齢者でとくに注意)
高齢女性でサイアザイド系による低Na血症(SIADH様)を起こすことがあります。
- 症状:倦怠感、食欲不振、意識障害
- 服薬開始初期・増量時の血清Na確認が大切
- 脱水や水分過剰摂取でも誘発される
5. トリプルワーミーに注意
ARB/ACE阻害薬+利尿薬+NSAIDsの3剤併用は、急性腎障害(AKI)のリスクが顕著に上がる組み合わせでトリプルワーミーと呼ばれます。
- 高齢・脱水・発熱時はとくに警戒
- OTC鎮痛薬(ロキソプロフェン・イブプロフェン等)の併用確認も必要
6. 甘草含有漢方薬との相互作用
甘草(グリチルリチン)を含む漢方薬は偽アルドステロン症を起こし、低K血症・高血圧を悪化させます。
- 注意すべき漢方:芍薬甘草湯、小青竜湯、葛根湯、補中益気湯など多数
- 利尿薬との併用で低K血症が強まる
- 服薬指導で「市販の漢方・葛根湯などを飲む前に相談を」
7. 夜間頻尿
利尿薬は服用タイミングで生活の質に影響します。
- 朝1回投与が基本。夕方以降の服用は夜間頻尿の原因に
- 高齢者の夜間トイレは転倒リスクにも直結
- 服薬指導で「朝飲んでください、夜は避けてください」と伝える
まとめ
利尿薬が降圧治療で使われる理由は、「日本人の食塩感受性高血圧に直接効く」「他剤との相乗効果」「長年のエビデンスと低コスト」の3点です。
- 降圧治療の主役はサイアザイド系、ループ利尿薬は心不全・CKD主体
- 低用量(ヒドロクロロチアジド 12.5mg、インダパミド 1mg)から開始が基本
- ARB+サイアザイドの配合剤は現場で最もよく見る組み合わせ
- 低K血症・高尿酸血症・耐糖能悪化・低Na血症はモニタリング必須
- トリプルワーミー、甘草含有漢方、夜間頻尿は服薬指導の要点
次回は、β遮断薬が高血圧で選ばれる理由について、心拍数・心拍出量の観点から掘り下げます。
参考文献
- 日本高血圧学会『高血圧治療ガイドライン2019』日本高血圧学会、2019年
- 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「医薬品情報検索(添付文書検索)」より、各種薬剤添付文書、及びインタビューフォーム等
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/ - 『今日の治療薬 2026』南江堂、2026年
- 医療情報科学研究所 編『薬がみえる vol.2』メディックメディア
※ 本文中の処方例・用量・副作用頻度・エビデンスの記述は、上記ガイドラインおよび各薬剤の添付文書に基づいた一般的な内容です。具体的な処方判断は主治医・担当薬剤師にご相談ください。

