PCI(経皮的冠動脈インターベンション)を受けた患者の処方箋を見ると、バイアスピリン(アスピリン)とプラビックス(クロピドグレル)が同時に処方されているのを目にします。
これがDAPT(Dual Antiplatelet Therapy、2剤併用抗血小板療法)です。「なぜアスピリン1剤ではなく2剤も必要なの?」「いつまで2剤を続けるの?」——これが新人薬剤師の疑問ではないでしょうか。
この記事では、DAPTの処方意図と期間の考え方、そして患者への服薬指導ですぐ使える言葉を整理します。
DAPTは何をしている治療か
DAPT(Dual Antiplatelet Therapy)は、その名の通り抗血小板薬を2剤同時に使う治療です。組み合わせは基本的に「アスピリン+P2Y12阻害薬(クロピドグレル、プラスグレル、チカグレロルのいずれか)」の1パターンです。
主な目的は次の2つです。
- ステント血栓症の予防が主目的:PCIで留置したステント表面で血栓ができるのを防ぐ
- 二次予防(副次的):心筋梗塞・脳梗塞などの再発予防
主に使われる場面はPCI後の一定期間ですが、PCIを行わないACS保存的治療でも用いられることがあります。
なぜ2剤併用が必要か|異なる経路を抑える相加効果
「アスピリン1剤でも抗血小板作用があるなら、それでいいのでは?」——この疑問に答えるのが「血小板凝集には複数の経路がある」という視点です。
血小板が集まって血栓を作る反応には、大きく分けて2つのスイッチ(引き金となる経路)があります。
- COX-1経路:トロンボキサンA2という物質が引き金になる経路 → アスピリンが抑制
- P2Y12受容体経路:ADPという物質が引き金になる経路 → P2Y12阻害薬が抑制
2つの経路を同時に抑えることで、単剤より血栓予防効果を高めることが期待できます。特にPCI後のステント表面は血栓ができやすい環境のため、単剤では不十分でDAPTが必要になります。
患者への伝え方例:「血栓を作らないための仕組みが2つあって、両方をブロックすることで、より安全に血栓を予防しています」
DAPT期間の考え方|「基本3〜12ヶ月」と「短期化の潮流」
DAPT期間の判断は、「基本推奨」と「短期化の考え方」の両方を押さえておくと処方の背景が見えてきます。
基本推奨|3〜12ヶ月
JCS2020フォーカスアップデートでは、PCI後DAPT期間はACSの有無や出血リスクによって異なります。標準リスクの患者では3〜12ヶ月(Class I A)が基本ですが、高出血リスク(HBR)患者では1〜3ヶ月への短縮が推奨されています(Class I)。
短期化の背景
近年、DAPT期間は短くなる方向で見直されています。理由はいくつかあります。
- 第2世代以降のDES(薬剤溶出性ステント)の登場でステント血栓症のリスクが下がった
- STOPDAPT-2試験(CCS患者中心)で、短期DAPTでも安全性・有効性が示唆された(※ACS患者を対象としたSTOPDAPT-2 ACSでは同等の短縮効果が確認されず、ACS患者では標準期間の遵守が基本)
- 日本人は欧米に比べて高出血リスク(HBR)の比率が高い可能性が示されている
高出血リスク(HBR)とは
HBR(High Bleeding Risk)は、出血リスクが高い患者を指す概念です。日本版のJ-HBR基準では、以下のような因子を持つ患者が該当します(Major因子1つ、またはMinor因子2つで「HBR」と判定)。
| Major因子(1つ該当でHBR) | Minor因子(2つ該当でHBR) |
|---|---|
| 低体重・フレイル、CKD(eGFR高度低下・透析)、貧血、心不全、抗凝固薬の長期服用、末梢血管疾患(PVD)、非外傷性出血の既往、脳血管障害、血小板減少症、活動性悪性腫瘍、門脈圧亢進症を伴う肝硬変、慢性の出血性素因、DAPT期間中の延期不可能な大手術、PCI施行前30日以内の大手術または大きな外傷 | 年齢(高齢)、CKD(eGFR中等度低下)、軽度貧血、NSAIDs・ステロイドの長期服用、非外傷性出血の既往、脳血管障害 |
新人薬剤師向けに押さえておくべきは、「高齢・CKD・貧血・抗凝固薬併用の患者は短期DAPTになりやすい」という感覚です。個別基準は徐々に覚えていけば十分です。
個別最適化がすべて
DAPT期間の判断は、最終的にはステント血栓症のリスクと全身の出血リスクのバランスを見て、患者ごとに個別最適化されます。「なぜAさんは1年でDAPT終了、Bさんは3ヶ月で終了?」の答えは、この個別判断にあります。
よくある処方パターン
薬局窓口では、患者が今どのDAPTフェーズにいるかを推定できると、服薬指導の質が上がります。
パターン1|DAPT導入期(PCI直後)
- 入院中にローディングドーズ(アスピリン200mg程度を咀嚼+P2Y12阻害薬の初日高用量:クロピドグレル300mg・プラスグレル20mg・チカグレロル180mg等)が投与された後、退院時から維持用量でのDAPTが始まります
- 処方例:バイアスピリン100mg 1日1回 + プラビックス75mg 1日1回
パターン2|DAPT継続期(数ヶ月〜1年)
- 2剤の維持用量が継続されるフェーズ
- 薬局で最もよく見かけるパターン
パターン3|DAPT終了後の単剤継続
- 期間経過後、クロピドグレル単剤 or アスピリン単剤に切り替えて長期継続
- 「薬が1剤に減った=治った」ではなく、二次予防は続いていることを伝えます
パターン4|短期DAPT→単剤化
- 高出血リスク患者では、1〜3ヶ月で単剤化する流れ
- 早めに単剤に切り替わっても、出血リスクを考えた合理的な判断です
現場でよく見る併用処方
DAPT期間中は、消化管出血予防を含めた併用処方がセットで組まれることが多いです。
- PPI(プロトンポンプ阻害薬):DAPT期間中の消化管出血予防で積極的に併用されます
- アスピリン+PPI配合剤:タケルダ配合錠(アスピリン100mg+ランソプラゾール15mg)、キャブピリン配合錠(アスピリン100mg+ボノプラザン10mg)などが選択肢としてよく使われます(ここで紹介したのは代表的な配合剤の一例で、他にも複数の種類があります)。錠剤数を減らして服薬アドヒアランス向上に寄与します
- 二次予防の基本セット:スタチン、β遮断薬(メインテート(ビソプロロール)、アーチスト(カルベジロール))、ACE阻害薬/ARB
注意すべき併用もあります。
- DOAC/ワルファリン併用:心房細動合併時等。抗血小板薬2剤+抗凝固薬の3剤併用は出血リスクが特に高く、期間を最小限にすることが推奨されます
- NSAIDs:ロキソニン等。消化管出血リスクが上昇。頭痛や関節痛にはアセトアミノフェン提案や医師相談を促します
- SSRI:血小板凝集抑制作用を持つため、併用で出血リスクが上昇
服薬指導のシーン別Q&A
DAPT患者からよく受ける質問と、回答例です。
Q1|「なぜ2つの薬を同時に飲むの?」
A:「血栓を作らないための仕組みが2つあって、両方をブロックすることで、より安全に血栓を予防しています。ステント(心臓の血管に入れた金属の網)が体になじむまでの間、特にしっかり血栓を防ぐ必要があるので、一時的に2剤で予防しています」
Q2|「いつまでこの2剤を続けるの?」
A:「一般的には数ヶ月〜1年ほどですが、患者さんごとに医師が判断されます。勝手に減らしたり止めたりせず、必ず医師の指示に従ってください。自己判断で中止すると、血栓ができるリスクが急に上がります」
Q3|「手術や抜歯の予定があるけど、どうすればいい?」
A:「歯石取りや詰め物、通常の抜歯は続けたまま処置できることがほとんどです(急に止める方が血栓のリスクが上がります)。ただし、DAPT期間中は特に慎重な判断が必要なので、大きな処置(インプラント、親知らずの抜歯、手術等)の予定があれば、事前に医師・歯科医にお薬手帳を見せて相談してください」
Q4|「1剤だけ飲み忘れたら、どうすればいい?」
A:「気づいた時点で、忘れた1回分を服用してください。ただし、次に飲む時間が近い場合は、忘れた分は飛ばして次の分だけ飲むようにします。2回分を一度に飲むことは決してしないでください。飲み忘れが頻繁に起こる場合は、医師にご相談ください」
新人薬剤師が見るべきポイント
- PPI併用の確認:DAPT期間中は消化管出血予防のためPPIが併用されることが標準。処方に含まれていない場合、出血リスクが高い患者では医師への提案も検討します
- DAPT期間の把握:お薬手帳、退院時サマリー、患者聞き取りで「PCI後何ヶ月目か」を確認。DAPT終了時期の目安を持てるようにします
- 出血リスク患者の見極め:高齢(75歳以上)・CKD・貧血・抗凝固薬併用の患者は、短期DAPTになりやすい背景を理解しておきます
- 服薬アドヒアランスの確認:DAPT中は特に自己中断の重大リスク。「飲み忘れが多くないか」「調子が良いから減らしていないか」を確認します
- 手術・抜歯予定の確認:DAPT期間中の周術期管理では、事前に主治医への連絡が必要かを確認します。次回受診・処置予定を聞き取り、事前対応の必要性を伝えます
まとめ
- DAPTは「2つの経路を同時に抑える」ことで血栓予防を強化する治療
- 期間は基本3〜12ヶ月、高出血リスク患者では1〜3ヶ月に短期化されることも
- 服薬指導の要は「継続の重要性を伝える」「飲み忘れ時の正しい対応」「手術予定の確認」
処方箋に2剤の抗血小板薬を見たら、「今どのフェーズか」「いつ単剤化されるか」「出血リスク患者かどうか」を意識できると、実務での判断力が一段上がります。
参考文献
- 日本循環器学会『2020年JCSガイドライン フォーカスアップデート版 冠動脈疾患患者における抗血栓療法』日本循環器学会、2020年
- 日本循環器学会『急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)』日本循環器学会、2019年
- 日本循環器学会・日本心臓血管外科学会『安定冠動脈疾患の血行再建ガイドライン(2018年改訂版)』日本循環器学会、2019年
- 日本循環器学会『2022年JCSガイドライン フォーカスアップデート版 安定冠動脈疾患の診断と治療』日本循環器学会、2022年
- 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(PMDA)「医薬品情報検索(添付文書検索)」より、各種薬剤添付文書、及びインタビューフォーム等
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuSearch/ - 『今日の治療薬 2026』南江堂、2026年
- 医療情報科学研究所 編『薬がみえる vol.1』メディックメディア
※ 本文中の処方例・用量・副作用頻度・エビデンスの記述は、上記ガイドラインおよび各薬剤の添付文書・インタビューフォームに基づいた一般的な内容です。具体的な処方判断は主治医・担当薬剤師にご相談ください。

